ディスク・グラインダーや卓上グラインダー
ディスク・グラインダーや卓上グラインダーは、金属製品の一部を研磨する場合には、 小型で、非常に役に立つツールです。 それ故、板金工場において、日常的に使用される道具となっています。
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ディスク・グラインダー | 卓上グラインダー |
多くの場合、板金工場で“バリ取り作業”と言えば、ディスク・グラインダーを手に持って 鋭利な刃物となっている板金製品のエッジを研磨する事を言います。 また、板金製品が小さな場合は、製品を手に持って卓上グラインダーで研磨します。
但し、これらグラインダーは、大量の研磨を行う事を想定したツールではありません。
これを使って、何百〜何千個の板金製品のエッジを研磨したりするのは、 あくまで間違った使い方(各社の取説にも明記)であり、 作業環境を無視した、危険でキツく汚い作業と言わざるを得ません。
しかし、残念ながら、このような作業は、板金工場では日常化しており、 その事が、板金工場における大きな問題点となっています。 今回は、これらのグラインダーを間違って大量使用した場合の、 板金工場に及ぼす影響について、考察してみたいと思います。
ディスク・グラインダーや卓上グラインダーの使用には、下記の様なリスクがあります
一般的な労働災害リスクと対策は次のとおりです。
①研削といしの破裂による危害
「研削といし」は、力が加われば破損・破壊し易いものであり、グラインダ作業中は高速回転し ており強い遠心力がかかっていますので、「といし」の結合力を超えれば破裂します。これは死亡に っながる重大な事故となります。 特に、「研削といし」の側面を使用して事故に繋がった例が多数報告されています。
対策方法は以下の通りです。
- 研削といしに貼付されているラベノレや検査票に記載されている種類や性質に合った使い方をする こと。 とりわけ「最高使用周速度」以内での使用を厳守すること。 周速度(m/s)=といしの直径(mm)×3.14×研削盤のといし軸回転数(rpm)÷60,000
- その他、補強入りオフセットといしは側面使用するが、側面に対する衝撃値規制、耐水性-湿式使 用禁止、耐熱性・研削現象(目こぼれ・目詰まり・目つぶれ)等を考慮した使い方をすること。
- 保管や運搬にあたっては、衝撃・圧力防止、防湿等に注意する必要があること。
- 「といし」の取付けにあたっては、各研削盤に使用可能な最大限の「といし」寸法内の「といし」 使用、適合したフランジの適切な使用、台板(底板)への適切な取付けが必要であること。
- 「といし」の形状毎に指定された「使用面」以外の箇所での研削を禁止すること。
- 研削といしのカバーの強度(材質・厚さ等)と、研肖盤本体とカバーとの取付部の強度は、「とい し」破壊時の衝撃に耐える強度が必要なこと。
- カバーの形状は、開口部はできるだけ小さくし、研削といし外周との隙間は3〜10mmとし、側 板も取付けること。
- 上記7.の研削といしとの隙間調整用として、研削といしの摩耗による隙問拡大に対応する調整片の 取付・使用が必要であること。また、調整片とその取付ボルトの強度は、「といし」カバー同様の 強度とすること。(調整片は集塵装置の吸い込み効果も上げる。)
- ワークレストは、定置式グラインダで、加工物の保持と、手の「といし」面との接触防止及び、研 削といしの破片飛来防止の効果があり、研削といしとの間隙が1〜3mmとなるよう調整して使用 する必要があること。
- 研削作業前1分間、「といし」交換時3分間、安全な位置での試運転を行い、異常な音響・振動の ないことを確認する必要があります。 研削用といしの取替え又は取替え時の試運転の業務は、労働安全衛生法令上の安全衛生特別教育を受 けた者でなければ行えないので、十分注意して下さい。
②粉じん・切削屑の飛来による危害
「研削といし」は、と粒(鉱物等の粒で刃物に相当)と結合剤と気孔(切屑を取り除く隙間)の 三要素からなっていますが、研削盤や加工物の材質、研削条作によって、多種多様の仕様(と粒・ 粒度・結合度)があります。そのため、研削といしの種類や性質がわかるよう研削といしにラベル と検査票が貼付されています。
研削時にグラインダーから出る火の粉は、微細な鉄などが、空気中に飛び散った時、 急激に酸化するために火花となります。木や石を研削しても火の粉は発生しません。 これが一見、美しく見えるため、あたかも懸命に仕事をしているかのように思うというのは、 大きな間違いです。 周囲に及ぼす危険性、汚れ、騒音は、板金工場そのもののイメージをも低下させます。
作業者は、必ず、 粉じん吸入による健康障害予防のため有効な防じんマスクの使用を徹底する必要があります。 そうでなくても、細かな鉄粉が作業着等に付着しますし、近傍にいるだけでも、 鉄粉のシャワーを浴びる可能性があります。 作業中は何ともなくても、 何かの弾みで鉄粉が目の中に入り、眼球に突き刺さる事例もあります。
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大量の鉄粉を放置しておくと、そこから出火する場合もあります。 鉄粉に水分が加わる事で、一気に化学変化が加速し燃焼する場合があります。 ちなみに、携帯カイロは、この原理を使って温かさを得る商品です。
対策方法は以下の通りです。
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(1)シールド・防護版
研削粉じんの飛来防止のため、安全ガラスや透明プラスチック製の板を研削面の前に設置します。 研削粉で傷つけられ曇りやすいので、定期的に取り替える必要があります。
(2)保護具
研削粉じん等の飛来で目を負傷するのを防ぐため防じん眼鏡(サイドシールド形)の使用を徹底する必要があります。
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(3)作業後は、速やかに衣類を着替える
作業が終わっても、衣類に付着した鉄粉が、自分と他人に悪影響を与える場合があります。
(4)周囲に人を近付けない
グラインダー作業中に、保護具を身に付けていない人が、近づくと危険です。
(5)作業後、速やかに清掃する。
ホウキで掃き掃除をすると、鉄粉を撒き散らす事にもなります。 掃除機で吸引するだけでなく、磁石を使って鉄粉が周囲に残らないようにする必要があります。 板金工場の周囲を通りかかった子供の目に、鉄粉が刺さったという事例もあります。
③接触・巻き込まれ・感電等による危害
ディスク・グラインダーが落下し、手に当たり、指を切断したという事例もあります。 対策方法は以下の通りです。
- 「といし」に接触・巻き込まれによる危害防止のためにも適切な「といし」カバーを設置する必要 がある。
- 「といし」部分以外でも接触・巻き込まれによる危害がある部分にはカバーを取り付ける必要がある。
- ディスク・グラインダーについては、接触・巻き込まれ防止と、グラインダが跳ねる・飛び回ることに よる危害防止のため、「といし」の回転が完全に停止してから台の上等に置くよう徹底すること。
- ディスク・グラインダーについては、研磨巾に材料に刺さってその反動でグラインダが跳ねるのを防止 するため、「といし」を水平面から30度以内の角度にして特に「といし」が新しいときは押しで はなく引いて研磨する。
- 感電防止のため、充電部分の被覆とその徹底が必要。
板金屋独特の事例としては、グラインダーでは無く、 バリ取り作業中に、板金のエッジに体が接触し怪我をする事例も多々あります。
④粉じんを吸い込むことによる危害
(1)局所排気装置・除塵装置等の設置
定置式グラインダ(法令上の義務付けは「といし」の直径30cm以上)では、研削といしカバーを ダクトに接続する等により、局所排気装置と除塵装置を設置・稼働する必要があります。 ディスク・グラインダーでは、全体換気装置の設置・稼働の必要があります。
(2)保護具
粉じん吸入による健康障害予防のため有効な防じんマスクの使用を徹底する必要があります。
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取替型防塵マスク | 取替型防塵マスク | 使い捨て型防塵マスク |
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電動ファン付呼吸用保護具 | 電動ファン付呼吸用保護具 (フェースシールド型) |
屋内の定置式の研削盤による研磨・ばり取り・裁断作業は、特定粉じん作業となり、労働安全衛生法 令上の安全衛生特別教育を受けた者でなければ行えないので、十分注意して下さい。
美しい板金工場では、ディスク・グラインダーや卓上グラインダーは使わない
ディスク・グラインダーや卓上グラインダーを使用するのであれば、 上記の内容を参考にし、事故やトラブルの無いよう、十分に配慮を行って頂きたく思います。
しかし、これだけの危険性が高い作業を、板金部品相手に長時間続ければ、 誰でも怪我をするのが当たり前ではないでしょうか?
近年、汚れやホコリの全く無い、板金工場に出会う事が増えてきました。 そういった工場では、例外なく、上記のようなグラインダーには頼らず、 きちんとした、設備と環境によってその美しさを達成しています。
数年後には、日本中の板金工場が1つ残らず、 このような美しい工場になっているはず。
勿論、バリ取り機を板金工場に向け、ご提案してゆく立場である弊社としましては、毎日のように、ディスク・グラインダーや卓上グラインダーを御使用になるのであれば、 安全性も高く、粉塵も撒き散らす事も無い、バリ取り機の御導入を、強くお勧めする次第です。